皆~!

 

 

 

……うん!いい返事だね!お壽司美味しいよね!(好きじゃない人ごめんね)

 

 

 

じゃあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……返事が聞こえねぇな?(助六壽司への愛を叫んでくれた人はごめんね)

 

 

助六壽司。主に稲荷壽司と太巻きで構成される折詰のお壽司。

「助六」という名前の由來は、歌舞伎の十八番「助六」という人気の演目から。この演目の主役「助六」に「揚巻」という愛人がいて、油「揚」げと太「巻」きで構成されたこの壽司を灑落で「助六」と呼んだから、との事。

 

……人気作品の人気キャラをもじった壽司の割に、助六壽司は「壽司」というカテゴリで最も下等な扱いを受けている感は否めない。

 

 

かくいう俺も、昔は大分侮っていた。

壽司って言えば魚介を食べたいのに、助六ときたらぼんやりと甘いだけで魅力的な具材は0。壽司を名乗るなとさえ思っていた。

でも最近、専門店の稲荷壽司の美味しさに気づいてハマった。

 

 

そして気付いた。

「これだけ美味しい稲荷があるなら太巻きも……」

 

「もしかして俺達はちゃんと美味しい助六壽司を喰った事がないだけなのでは……

と。

 

 

だとしたら助六壽司は今不當に無禮(なめ)られている事になる。

 

 

 

……許せねぇな。

 

 

 

俺は自分が馬鹿にされるより、自分が気に入った物を侮られる方がトサカに來るタイプ。

そういうタイプのめんどくさいオタクだ。(自分も見下していたのを棚に上げる點も含めて)

 

 

だから見せてやる。助六壽司の本気を。

 

 

 

……俺自身の手で。

 

 

という訳で改めましてこんにちは。

衛生上の観點より終わってない部屋から失禮します。

 

 

登場人物紹介

ストーム叉焼

當記事のライターであり今日の助六壽司つくりびと。この日の為に有給を取って撮影に臨んでいる。助六壽司を作る為に。
稲荷壽司の優しさが染みる年頃になってきた。

原宿編集長

本日はカメラマンとして撮影を依頼。當日撮影予定時間を聞いて軽く引いていた。
「今日は魚じゃないな」という時は助六壽司に手が伸びる。

 

今日使う食材はこちら。
?

 

助六壽司を作るというだけでこれだけの食材を調理する必要がある。

 

 

 

既に若干の後悔が湧き上がっている。

 

仕込む

 

まずシャリを炊く。

 

用意したのは地元山形の米「つや姫」

 

甘みと粘りがあり、また「冷めた時にうまい」「米に味をつける調理をすると更にうまい」と、多分酢飯向きの品種だ。握り壽司に相性がいいかはわからないが少なくとも助六には合うだろう。

 

 

ゴミを落とす程度に洗う。

 

 

「米を研ぐ」という言葉も、現代の精米技術の前では死語となりつつある。

水は少なめで炊飯器に投入。

 

 

 

 

次に鰹出汁を取る。

粉末出汁、めんつゆ、白だし。

技術の進歩は自分で出汁を取る必要性を限りなく奪っていく。

 

既製品を使わず鰹節から出汁を取れば圧倒的に美味いかと言われればそうではない。

別に上等な鰹節を使う訳でもなく、素人が見様見真似で出汁を取るだけ。

そこにあるのは「手間をかけたのだから本物で優れているはずだ」という幻想。

 

だがこうやって出汁を取る。今日はそういう日だから。

 

 

次に干物の用意。

かんぴょうは水洗いし、塩もみをしてから茹でる。

 

 

靴紐ですね」

「食い物感ないなぁ」

 

 

かんぴょうの下処理は人生で初めてだった。恐らく今後の人生でも片手で數えられる回數しか手を付けないだろう。

 

それでも、スーパーには大體かんぴょうの干物がある。

それほど需要があるのだろうか。日常的にかんぴょうを炊くライフスタイルの人がどこかにいるのだろうか。それとも、かんぴょうは商品の多様性の為だけにそこにあって、棚の中で干からびていくのが役目なのだろうか。(もとより干物だが)

 

 

 

 

 

アホみたいに長かったので、下茹で後に程良い長さにカットする。

 

 

ちょっと味見したらほぼ無味だった。「なんの為に喰うんだこれ」という感情が沸き立つ。

 

 

干し椎茸だけは自宅で仕込んできた。水で戻すのに5~6時間はかかるからだ。

 

 

 

「ホントに衛生には気をつけたんで」「容器はちゃんと洗ってます」

我が家の慘狀を知る原宿さんに必死に安全を説いた。

 

(過去の記事で登場した我が家)

 

 

 

 

……必死過ぎて逆効果だったかもしれない。

 

「……蓋に付いてるの蟲じゃない?」

「違いますよ!椎茸の欠片ですって多分」

 

 

そして下処理を終えたかんぴょうとしいたけを調理していく。

 

椎茸出汁と醤油、酒、ザラメで炊いていく。

「炊く」という言葉が気に入っている。

本來関西圏の方言らしく、「炊く」という言葉の使用圏からは外れている。

が、ひたひたの出汁でことこと加熱し味を染み込ませる工程は「煮る」よりも「炊く」がぴったりと馴染む気がする。

 

 

レシピは白ごはん.comを參考にした。

「レシピ」というよりは「教科書」の方がしっくり來る、簡潔で正統派な調理手法。

料理のレシピだけではなく、素材の下処理から教えてくれるこのサイトにお世話になる自炊家は多いだろう。

 

 

俺達は白ごはん.comの傀儡となる事で食の豊かさを手に入れている。

 

 

 

汁気が飛ぶまで煮詰めたら火から外し、冷まして味を馴染ませる。

 

 

 

次はお揚げ。早めに作って冷まし、煮汁を馴染ませなくてはいけない。

助六壽司とかいう奴、當日調理する形式と相性が悪い。前日に作ったほうがいいもんばっかりだ。

 

 

使うのはスーパーで売ってる普通の油揚げ。

 

せっかくだから近所の豆腐屋で油揚げを買っていこうと思ったら、いつの間にかマッサージの店になっていた。

ステンレスのシンクの中に純白の豆腐が沈んでいるタイプの、古めかしさ漂う風情ある豆腐屋だった。

 

だが俺に消えゆく風情を惜しむ権利はない。

いつなくなったかすら認知出來ない程の利用頻度で、なくなった事を殘念がるなどおこがましいにも程がある。

 

 

半分に切って袋狀に開いていく。

 

ここが非常に神経を使う作業で、耐久度のない薄っぺらな表皮に傷付ける事なく、意外と強固な結著を引き剝がす必要がある。

昔からの裏技として、菜箸でコロコロする事で開き易くする事g

 

 

最初から袋狀になっていた。不思議な事もある。安い油揚げ買ったから?

 

 

 

 

とりあえず全部切る。

 

多くない?

「まぁ……足りなくなるよりは」

 

 

開いた油揚げ(開けてない)は茹でてきっちりと油を抜く。調味料で煮込むだけなら油もコクの一部になるらしいが、今回は出汁で炊いていくので油のくどさは抜いておきたい。

勿論これも白ごはん.comの受け売りだ。今日出てくる調理過程はほぼ全て白ごはん.comのデッドコピーと思っていい。

 

 

茹でたら水に取り冷ます。

 

 

「……」

 

 

 

多いかもしれません

 

水気を絞り、鍋に並べて調味料と出汁を注ぐ。

 

 

これもまた汁気が減るまで炊いていく。

 

 

 

つゆがしっかり染み込んだ、ふんわりとしたお揚げの完成。

 

 

 

 

 

「……」

 

いや……今は……

 

 

 

 

次に卵焼き。

出汁と砂糖と塩を混ぜた普通の卵焼き。

 

 

「……実家の卵焼きの味って覚えてます?」

「うーん……あんまり美味しくなかったかなぁ。全然甘くなくて」

「ウチは逆にかなり甘めでしたね。塩気殆ど入れてませんでした」

 

そもそも卵焼きにおける「普通」とはなんだろうか。

子供の頃、友達と弁當箱を突き合わせる度に、そこに入っている他人の卵焼きにいつも違和感を覚えていた。それぞれの家庭にそれぞれの「普通」がある。

 

そんな中でも、俺は自分の母親が作る「普通の卵焼き」が卵焼き界の中でも上位に位置する味だと思っていた。
卵焼き器ではなくフライパンで作る、大分甘めの卵焼き。俺が料理好きになるきっかけを作ってくれた、同じく料理好きの母の「おふくろの味」の一つ。

 

 

 

 

今日作る卵焼きはそんな母の味とは全く関係ない。白ごはん.comさんお世話になります。

鰹出汁と薄口醤油、砂糖とみりんを加えた卵液を卵焼き器で焼いていく。

 

出汁の入った卵焼きは形も崩れやすく難易度が上がる。失敗と無縁とはいかない。

 

 

「あっやべ」

「おやおや?」

 

 

だが、ちょっと位失敗したって、そしてちょっと揶揄された位でへこたれてはいけない。

 

途中で少し崩れた所で、何度もリカバリーのチャンスはある。最終的に綺麗に巻ければ大成功だ。人生も同じ。

 

 

逆に言えば最後にしくじれば全部臺無し。人生も同じ。

 

 

 

 

なんだかんだで無事綺麗に焼けた。

 

 

 

 

何回作っても、卵焼きが綺麗に焼けると嬉しい。

 

 

 

焼き上がったら巻きすで形を整える。

 

 

この巻きすのデビュー戦が巻き壽司じゃなく卵焼きになってしまった。助六壽司の記事なのに。

 

 

でんぶる

 

 

 

「ところでこの鱈何に使うの?」

「それ桜でんぶの材料です」

桜でんぶって鱈なの?!

 

桜でんぶ。あのピンクの甘い粉だ。

実はこれ、鱈などの白身魚が原料だ。皆は知っていただろうか。

 

 

俺は知っていた。

 

噓でもいいからここで「全然知らなかった」と書いておけば話を膨らませられるというのに、長年のインターネット人生で培われた虛栄心がそれを許さなかった。

 

俺は桜でんぶの原料を知っている。今後の人生も、こんな何の足しにもならん見栄を張って生きていく。

 

 

鱈の身を10分程茹で、水に取ってほぐす。

 

 

 

「……何してるのこれ」

「骨と皮を取りつつ汚れとか脂を洗い流す工程らしいです……」

 

 

 

本當にあってるのか?という気持ちが湧き上がる絵面。

ここまでの工程で鱈の旨味なんぞほぼ全て流出してないだろうか。イギリス料理か?

 

 

 

 

そうして汚れや皮、骨を外してほぐし、砂糖、酒、塩を加え煎っていく。

ひたすら身を突き崩してほぐす。ゴールはあのふわふわの物體だ。

 

 

「レシピに菜箸4本持ってやると効率がいいってあったんですよ!!!うおおおおおお!!!!

 

 

 

 

「……なんの為にこんな事すんの?って思うねこれ」

クソーーー!甲斐がねーーー!!!

 

 

全然ほぐれていかない。細かくフレーク狀になっていくばかりでここからふわふわの桜でんぶになっていくビジョンが浮かばない。

そしてこの絶え間ない重労働の先に待っているのが、あの薄ら甘いピンク色の粉なのかと思うとモチベーションが続かない。

 

なんかこう……この作業は鱈の美味しさを盡く破壊しつくす為にやってるのか?という疑念まで湧いてくる。なんでこんな事してるんだ?

 

 

 

水で溶いた食紅を加えた後も同じような作業が続く。油分が殆どないせいか、だんだんフライパンにこびりつき始めた。

 

「ヤバイ!焦げる焦げる!」

 

菜箸戦法に見切りをつけ、ヘラでへばりついた鱈の身を引き剝がしにかかる。

 

 

 

「……あれ!?なんか急に桜でんぶになり始めた!

 

 

フライパンの底をこそぐと、突如ふんわりとした物體が現れ始めた。

こびりついた事で繊維がほぐれ、効率よく熱が加わる事で一気に完成形に近付いたのだ。

一見失敗に見えた過程こそが、ゴールへと繋がっていた。

死中に活ありとはこの事か。違うと思う。

 

 

 

こうして十數分の死闘が終わった。

先の見えない不安に苛まれながらも、自家製の桜でんぶができた。もっとカラッカラのふりかけ狀になるのかと思いきや、そこにはふわふわのピンクがあった。

 

「ここまでして出來上がるのがこれなのか……」

今日の調理過程でぶっちぎりで大変だった。両手の握力が破壊された。

そこまでして作ったのが桜でんぶ。報いがない。

 

 

取り敢えず味見。

 

 

「……ん?」

「どう?」

 

 

「……ちょっと食べてみて下さい」

 

 

 

 

 

「……あ!美味い!

 

驚いた。ちゃんと美味い。

 

噛み締めると濃縮された魚の旨味を感じる。イメージ的には干物と焼きかまぼこのシート(チータラの皮)の中間。そこに程良い甘みが合わさってひとつまみで高い満足度を感じさせてくれる。ご飯にも合う味だ。

 

「ちゃんと作った桜でんぶってこんなに美味いんだ」

「びっくりですね……もう二度と作りたくないですけど」

 

「鱈の調理法として最上」という事は決してないが、桜でんぶという食べ物への価値観を一新するに有り余る美味さだった。色んな人にこの経験を味わって欲しい。俺は二度とやりたくないが。

 

 

11時に撮影を開始し、時刻は既に14時になっていた。

ここで原宿さんがオモコロchの撮影の為に一時離席。

 

「多分2時間位で終わるんで、後は巻くだけって所までセッティングしてて下さい」

「了解です」

 

 

 

そして俺は一人スタジオに殘された。

 

 

 

これから2時間、俺が何をしていようと誰も知る由もない。

……やるなら今しかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きつねうどん。

 

お揚げが炊きあがった瞬間からこうしてやりたかった。「うどんに浮かべたい」という欲望を燻ぶらせ、その時を待っていた。

そして今、鍋からくすねたお揚げは、最初からそうあるべきだったかのように黃金色の出汁の上に揺蕩っている。

 

誰も俺を止められない。

 

 

いただきます。

 

 

……美味い……!

 

噛み締めた瞬間、口の中に溢れ出す煮汁。甘い。根源的な幸せの甘さだ。

そして箸で持ち上げる事すら心許ない柔らかさで、お揚げは滑らかにほどけていく。

 

 

そしてうどんを啜る。最低限の味付けのつゆが、お揚げとのコントラストを際立たせる。

 

自家製のお揚げがこんなに美味いとは……!

夢中で啜って完食した。

 

食器は即座に洗い、証拠は消えた。

 

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