先日、私のツイッターにダイレクトメッセージが屆いた。
送り主は、東京都に住む八原久美子さんという三十代の女性だった。





文面から、八原さんが精神的にかなり追い詰められていることが伝わってきた。
ひとまず、彼女と連絡をとり、例のテープを私の家に送ってもらうことにした。

 

數日後

八原さんから封筒が屆く。

 

彼女の言う通り、たしかにこれはビデオテープだ。
「ビデオテープ」といっても、世代的に馴染みのない人もいるだろうから、簡単に説明する。

 

ビデオテープとは、DVDやブルーレイが普及する以前に使われていた映像メディアだ。
仕組みは以下のようになっている。

 

まず、磁気テープという、黒くて細長いテープに映像を記録する。
1時間の映像を記録するためには、およそ120メートルのテープが必要になる。かさばって仕方がない。

 

そこで、テープを小さな滑車に巻き付け、カセットという箱に収納する。

 

このカセットを、再生機に入れることで、映像を見ることができる。

 

これはおそらく、磁気テープをカセットから取り出し、切り取ったものだろう。
映像が入っているかもしれないが、むき出しのままでは再生することができない。

 

そこで私は、家にあった古いカセットを改造して、例のテープを取り付け、再生機に入れてみた。
こんなことをして機械が壊れるのではと心配だったが、なんとか無事に三本とも再生することができた。

しかし、そこに映っていた映像は、あまりにも不気味でまがまがしいものだった。
以下に、三つの動畫をアップロードするが、ノイズがひどいうえ、流血(を思わせる)映像があるため、具合の悪い方にはおすすめしない。
映像を見なくても、この記事を読む上でほとんど不都合はないので、興味のある方のみ見てほしい。

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これを見て気づいたことがある。おそらく、三つの映像には順番がある

まず、一本目のテープ。

 

ロウソクが二本。その奧に人形(?)のようなものが立っている。
畫質が悪くわかりづらいが、人形はヒモでバッテン型に縛られている。
映像の最後のほうで、人形に赤い液體(血?)がかけられる。

続いて二本目のテープ。

 

先ほどの人形が床に寢かされている。衣服が赤く染まっているのが分かるだろうか。
この映像では、人形を縛っているヒモを刃物のようなもので切っている。

そして、最後のテープ

 

拘束を解かれた人形が、積まれた石(?)の上に寢かされている。
ふたたび人形に液體がかけられるが、今回は赤くない。

 

印象としては、低予算カルト映畫といったところだろうか。
しかし、そんなものがなぜ家のいたる所に貼り付けられていたのか。

私だけではとても解決できそうにないため、一人の知人に助けを求めることにした。
以前にも記事に協力してくれた、栗原さんという人だ。

 


※栗原さん出演記事「不動産ミステリー 変な家」

栗原さんの本業は設計士だが、ホラーやオカルトにも詳しい。「中古物件で見つかった謎のビデオテープ」という今回の相談にはうってつけだと考えた。
私は、三つの映像を動畫ファイルに書き出して、メッセージと一緒に栗原さんに送った。

 

テープ考察

栗原さんから電話が來たのは、數時間後のことだった。
以下、彼との會話を記載する。

 

栗原:雨穴さん、お久しぶりです。また、ずいぶん不気味なものを送り付けてくれましたね。

雨穴:申し訳ないです…。

栗原:それで…これが、八原さんという人の家に貼り付けられていたんですか?

雨穴:そうなんです。気味悪いですよね。まずは、この映像が何なのかを突き止めるところからはじめようと思いまして…。
見た感じ、低予算カルト映畫っぽいなと思ったんですが、栗原さんそういうの詳しいですよね。これ、何だか分かりますか?

栗原:うーん…自慢じゃありませんが私、その手の映畫はほとんどコンプリートしてるんです。でも、これは見たことないですね。
少なくとも一般発売されたものではないでしょう。

雨穴:自作ですか…。じゃあ、手がかりを見つけるのは難しいですね。

栗原:いや、一つだけ分かることがあります。

雨穴:え?

栗原この映像が作られた年代です。

雨穴:年代…。たしかに、相當古い映像というのは分かりますね。昭和って感じがします。

栗原:いえ、私が思うにこれが撮られたのは比較的最近。
少なくとも今から15年以內でしょう。

雨穴:え?どうしてそんなことが分かるんですか?

栗原:雨穴さん、映像をよく見てください。

 

栗原:一本目のテープと二本目のテープ。
どちらも同じ人形が映っていますが、微妙に形が違うの分かりますか?

 

栗原一本目は細長くて、二本目はちょっと幅が広いですよね

雨穴:たしかに。

栗原:人形が痩せたり太ったりするはずないので、おそらく映像が歪んでいるんです。

雨穴:映像が歪む?

栗原:はい。つまりこういうことです。

 

栗原:この三つの映像は、もともとはもっと橫長だったんです。それが何らかの理由で縦に縮んでしまった。
ゆえに、この映像が撮られたのは15年以內だと言えるんです。

雨穴:……え?どうして?

栗原:うーん…。ちょっと難しい話になるんで、なるべく簡単に説明しますね。

雨穴:お願いします…。

栗原:では、はじめに雨穴さん。
「テレビ」ってご存じですか?

雨穴:それはさすがにバカにしすぎ。

 

テレビの歴史

栗原:テレビには、いろんな種類があります。

 

栗原:大きなものから攜帯用まで様々。しかし、どのテレビにも共通していることがあります。

 

栗原:それは畫面比率
テレビ畫面のヨコタテ」の比率のことです。
世界中、ほとんどのテレビは169という比率で統一されています。

雨穴:へえ。

栗原:ただ、これは現在の話。昔は違ったんです。

 

栗原:昔は、今よりも縦長な43という比率のテレビが主流でした。

雨穴:ああ、懐かしのブラウン管テレビですね。サザエさんの家にある……。

栗原:ええ。そして、この変化が起きたが約15年前なんです。

 

栗原:今から15年ほど前、「これまでのテレビは時代おくれ。これからは橫長ワイドの時代だ!」みたいな感じで、世界的にテレビの規格が変わったんです。
この時期はまさに映像業界の革命期で、いろんな変化が起きました。

 

栗原:それまで主流だったビデオテープが廃れ、代わりにDVDがあらわれた。
撮影機材にしても、43」でしか撮れない舊型ビデオカメラが廃れ、169」の映像も撮れる新しいカメラが発売されました。

雨穴:技術が進歩したんですね。

栗原:そうです。しかし、この時期にとても困ったことが起きました。

 

栗原:たとえば、ビデオテープに録畫した43の映像をDVDにコピーしようとすると、機械が勝手に「169」に引き伸ばしてしまう。細身の人が、ぽっちゃり體系になっちゃう、みたいなことが多発したんです。
ビデオテープは「4:3」の映像しか記録できないのに対し、DVDは「16:9」が基本設定だからです。

雨穴:ああ…機械って、そういう融通きかないところありますよね。

栗原:ええ。ただ、肝心なのはここからです。
八原家のビデオテープでは、それと逆のことが起きてるんですよ。

 

栗原:この映像は三つとも「4:3」……そして縦に縮んでいる。つまり……

 

栗原新型のカメラで撮った映像を、ビデオテープに記録したせいで、機械が勝手に「16:9」を「4:3」に縮めてしまった。だから縦に伸びているんです。

雨穴:なるほど……。ええと……まあ、簡単に言えば、この映像は「16:9」のカメラが普及してから撮られたものだから、今から15年以內、といえるんですね。

栗原:そうです。

雨穴:ん…?ということは、この映像が撮られたときには、もうビデオテープは廃れていたんですよね。
どうしてわざわざ、舊世代のメディアを使ったんでしょうか。

栗原:そこですよね。おそらく、何らかの意図がある。「ビデオテープでなければならない理由」があるんですよ。

雨穴:うーん。

栗原:それで私、さっきネットで「ビデオテープ、隠す、怖い映像」で検索してみたんです。
すると…案の定というか、都市伝説サイトに行きつきました。

雨穴:都市伝説?

栗原:今、メールでURL送りますね。

 

意図

ーーーそれは、怖い話や都市伝説を紹介する、古めかしい個人サイトだった。

 

雨穴:ビデオテープのおまじない?

栗原:內容としては『呪いの儀式を録畫したビデオテープを、嫌いな人のポケットに隠しておくと、その人は不幸になる。』というものです。

 

栗原:私は知らなかったんですが、わりと有名な都市伝説らしくて、昔、學生の間でちょっと流行ったみたいです。ちょうど「リング」がヒットした時期でしょうか。

雨穴:ああ、「呪いのビデオ」ブームの頃か。

栗原:で、このおまじないが面白いのは「呪いの儀式」なら何でもいいというところです。そのラフさというか、自由さがウケて全國に広まったんでしょう。
そして、どこかでその噂を聞きかじった誰かが、おまじないを実踐した。

 

雨穴:つまり、このビデオテープに入っている映像は「呪いの儀式」だと……。

栗原:ええ。そしてそのテープをポケット、ではなく八原家の家中に隠した。いわば、おまじないの応用です。
犯人は、家そのものを呪おうとしたのではないでしょうか。

雨穴:家そのもの……。じゃあ、八原一家を恨む誰かが……。

栗原:そうとは限りません。この家、中古物件なんですよね。前の住人を恨む誰か、という可能性もあります。

雨穴:あ、そうか。

栗原:そして、もう一つ。前の住人が八原一家を呪うために、ビデオテープをしのばせて家を売った……。この可能性も捨てがたい。

雨穴:…………

 

ーーーそういえば……「ある人」とはいったい誰なのか。

 

呪い

雨穴:あの…ところで栗原さんは、この呪いに効果はあると思いますか…?

栗原:ないと思いますよ。

雨穴:え?

栗原:私はホラーマニアですが、霊や呪いは一切信じていません。
まじないで人を殺せるなら、祈禱師はヤクザくらい恐れられているはずです。

雨穴:はあ……。

栗原:ただし、「あいつを呪ってやりたい」という人間の気持ちは確実に存在します。
誰かが八原一家に恨みをいだき、八原家に呪いのテープを仕掛けた。殘念ながら、これは事実です。

雨穴:これから、どうすればいいんでしょうか。

栗原:まあ、直接の被害がないなら放っておいてもいいと思いますが、八原さんがどうしても気になるっていうなら、犯人を見つけて和解するのが一番でしょう。
とりあえず、私はこのテープについて詳しく調べてみます。ここに映ってる「呪いの儀式」が何なのか。それが分かれば、犯人につながる手がかりになるかもしれません。

雨穴:よろしくお願いします。

栗原:そうだ、雨穴さんに一つ頼みたいことがあるんです。八原家の間取り図を借りてきてもらえませんか?

雨穴:間取り図?それが、テープと何か関係があるんですか?

栗原:いや、設計士の職業病というか、一応間取りを把握しておきたいんですよ。お願いします。

 

八原久美子さん

次に私は、相談者の八原久美子さんに電話をかけた。
以下、八原さんとの會話を記載する。

 

雨穴:お世話になっております。雨穴と申します。

八原:あ……雨穴さん。お世話になっております。このたびは、ご面倒をかけて申し訳ありません。

 

ーーー不安のためか、彼女の聲は暗く、覇気がなかった。私はなるべくオブラートに包んだ言い方で、ビデオテープに映っていたもの、そして栗原さんから聞いたことを伝えた。

 

八原:……じゃあ、誰かが私たちのことを……恨んでいて……

雨穴:ただ、八原さんたちが今、何ごともなく普通に生活されているなら、少なくとも呪いの効果はない、ということだと思います。
家の中で、不吉なことが起こったりとか……ありませんよね。

八原:…………

 

ーーー少しの沈黙が流れる。その後、八原さんは覚悟を決めたようにこう言った。

 

八原:…………思い當たることは…あります。

雨穴:え?

八原:四年前のことなんですが…ちょうどこの家に越してきてから、不幸なことが立て続けに起きたんです。

雨穴:……詳しく聞かせていただけますか?

ーーー彼女によると、八原一家が今の家に越してきたのは2017年の2月。當時、八原家は四人家族だった。

 

ーーー久美子さん、夫の誠一さん、當時2歳だった息子の修斗くん、そして誠一さんの母親?咲江さん。
最初の不幸が起きたのは、その年の4月だった。

 

八原:修斗が、私が目をはなしている間に、リビングで転んでしまって、運悪くおもちゃの角に頭をぶつけて、大けがをしたんです。
大量出血でした。幸い、病院の処置が早かったおかげで命に別狀はなくて、今は元気に暮らしているんですが……

雨穴:それは……助かって何よりですね。

八原:はい。でも、その一か月後…5月20日の朝でした。
主人の誠一が亡くなったんです。

雨穴:え……?

八原:突然死でした。自分の部屋で……。持病もないのに……。

雨穴:そんな……

八原:そしてその1か月後…義母の咲江さんが、階段から転落して大けがを……も、もしかして……ビデオテープのせいで、この家は呪われていて……!!

雨穴:落ち著いてください。大丈夫です。きっと偶然ですよ。呪いなんて存在しません。

 

ーーー取り亂した八原さんを落ち著かせるため「偶然」とは言ったものの、そんな短期間で不幸が連続して起こるなど、そうそうあることではない。

 

雨穴:とりあえず、このテープの正體を突き止めなければ、不安は消えないと思います。
失禮ですが、八原さんたちを恨んでいそうな人、過去にトラブルがあった人など、心當たりはありませんか?

八原:……一人だけ、います。この家を私たちに売ってくれた人です。

 

前の住人

雨穴:メッセージにあった「ある人」のことですね。その人とはどういうご関係ですか?

八原:主人の幼馴染です。中田明人さんというんですが、二人とも、就職を機に地元の徳島県から東京に出てきたらしくて、若いころはしょっちゅう二人で遊んでいたそうです。
私も、主人と付き合いはじめたころ、三人で一緒に食事をしたり、お互いの家に遊びに行ったりしていました。
私が主人と結婚して、息子の修斗が生まれて「そろそろ一軒家に引っ越したいね」って話していたころ、ちょうど中田さんの転勤が決まったんです。お互いの都合が重なったこともあって、友達価格…っていうんでしょうか、相場の半分以下で、この家を私たちに売ってくれたんです。

雨穴:でも、そんなに仲が良かった人がどうして?

八原:……わかりません。売買の契約が終わった頃、主人と中田さんの間でいざこざがあったらしくて。家の引き渡しが終わってから、一回も會っていないんです。

雨穴:その、いざこざというのは?

八原:………わかりません。主人に聞いても………教えてくれませんでした。

雨穴:そうですか…。ちなみに、中田さんは今どこに住んでいるんですか?

八原:今は地元の徳島に戻っている…と噂に聞きましたが、詳しいことは何も。

雨穴:なるほど…。わかりました。
今、栗原さんという人に、例のテープのことを調べてもらっていますので、何か分かったらご連絡します。

八原:ありがとうございます。ご迷惑かけて申し訳ありません。

雨穴:いえいえ…あ、そうだ。その栗原さんから頼まれたんですが、もし可能であれば、ご自宅の間取り図を見せていただけませんか?

八原:間取り図ですか?

雨穴:はい。なんか、職業病でどうしても見たいらしくて。

八原:わかりました。たぶん、咲江さんが場所を知っていると思うので、後で聞いてみますね。

雨穴:咲江さん……というのは、誠一さんのお母様ですよね。

八原:はい。主人が亡くなったあとも、無理を言って同居してもらってるんです。咲江さんが修斗の面倒を見てくれるおかげで、私はフルタイムで働けていますし、本當に感謝しているんです。

雨穴:それはよかったですね。ところで咲江さん、階段から落ちて大けがされたんですよね。今はお體は大丈夫なんですか?

八原:事故の後遺癥で、今でも膝が悪いみたいで……でも、それ以外は健康そのものです。

 

三つの不幸

電話を切ったあと、八原家で起きた出來事をメモにまとめた。

 

 

中田明人は、何らかの理由で八原誠一さんに恨みを抱いていた。
そこで、家を引き渡す前に、家中に「呪いのビデオテープ」をしのばせた。
呪いの効果で、八原家の人間が次々に不幸に見舞われた……

まさか…本當に呪いが存在するとでも……?

 

間取り

その夜、八原さんからメッセージが送られてきた。

 

※手書きの文字は、八原さんによるもの。

 

ーーー二階建ての一軒家。ありふれた民家だ。しかし、この間取りが後々、呪いの真相に深く関わってくることになる。

 

最後のテープ

栗原さんから電話がかかってきたのは、五日後のことだった。彼は興奮気味な口調で言った。

栗原:雨穴さん、わかりましたよ。ビデオテープに映ってる儀式の正體。

雨穴:え?

 

 

不気味な儀式の正體とは……?